コンペでデザインを決めないほうがいい理由。その1

安いものにはリスクがある。

現在はクラウドソーシング全盛だ。
ロゴでもキャラでもポスターでもWebサイトでも、
クラウドソーシングに行って適当に予算を入れて「コンペ」とすれば、
何案も集まってくる。

事業主にとっては、
よりどりみどりの選択肢があるにも関わらず
リーズナブルに制作物が作れるため、
いいことだらけのように見える。

しかし、安いものには当然リスクもある。
少し前に炎上し閉鎖したDNAの「WELQ」を発端に、
いくつかの大手キュレーションサイトが次々に閉鎖してしまう騒ぎがあった。

クラウドソーシングで安く集めた素人ライターを大量に使い、
パクリ記事を大量生産することで常に上位の検索順位を保っていたことがバレちゃったわけだ。

問題の本質は発信元として責任ある記事を出す努力をしなかった、
あるいはそのような概念そのものが欠如していたということだ。
結果的に企業の信頼性を大きく毀損してしまった。

クラウドソーシングにはプロもいればちょっとデザインのうまい学生や主婦まで、
様々な人間が登録している。
当然、モチベーションも様々だ。

たとえばロゴマークなどのコンペだったりすると、
その仕事の獲得をきっかけに新しいクライアントとの関係をつくり、
様々な制作物の受注につなげようと考えるプロデザイナーもいれば、
運良く採用されて5万かそこらのお小遣いが稼げれば十分という学生もいる。

もちろんマークは「ただの図案」だから、
気に入った絵柄があればそれを採用すればいい。
ただし、WELQ騒ぎのようなリスクがあることは承知しておくべきだ。

ロゴマーク制作などの仕事は、
プロデザイナーの世界ではC.I(コーポレート・アイデンティティ)制作と呼ばれ、
かつては1案件数百万から数千万円だったこともある。
マーク制作はもちろん、店舗のデザインや営業車のペインティングに至るまで、
その企業が消費者にどう見えるかを設計するのである。
制作期間に数ヶ月から1年ぐらいを要するのは当然でもあった。

それと同列に語ってもしかたないが、
プロデザイナーがマークを作るときは、マークの形だけをいじっているわけではない。
その企業の社会的な価値や理念などからコンセプトを抽出し、
市場で実際にワークする造形を生み出していくのである。
その作業を行って行く上では、クライアントとの対話も不可欠である。

そのような作業を伴うものだから、
「マーク一つ5万で、コンペで」などに応じるまともなデザイナーはほぼいないと思った方がいい。
上記のような労力が5万でペイするわけがないのだ。

仕事の合間に適当に作っておいた図案を使いまわすといったことも横行するだろう。
どこかからパクったマークもあるかもしれない。
様々な制作物を作ってしまったあとで、
「弊社のマークと酷似しているからやめてください」とか言われたら大損害だ。

そんなマークに企業のアイデンティティを込めるなんて寝言はやめておこう。
このブログの一番最初のエントリーで、
下手なロゴマークを作るぐらいならキャラを作った方がいいよと書いたのは、そんな理由による。

だが、本当にワークするものを作りたいなら、話は別だ。
デザイナーときちんと話をして、
コンセプトを練るところからはじめて、納得できるものを作って欲しい。

もちろん、かかるお金はクラウドソーシングとは桁が違うだろう。
だが、そうやって作るマークには経営者の魂が入り、
社員や、顧客たちの愛着も集める企業の財産になっていくだろう。

 

最後まで読んでいただいてありがとうございます。
デザインは戦略です。
デザインタイズして、もっといい会社になろう。
※「デザインタイズ」とは、デザインで企業価値を創るという意味を込め、”マネタイズ”からもじった造語です。日本人以外には通用しません。

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