出遅れた写研
もう4ヶ月ほどの前のNEWSだが、写研の石井明朝・石井ゴシックが2024年にリリースされる。
写研といえば、関東圏で写植・版下を扱った経験のあるデザイナーなら誰もが当たり前のようにその写真植字書体(以下写植)の数々を使用していた。一方、モリサワの写植を使用していたのが主に関西圏のデザイナーと言われているが、本当にそうだったのかはよくわからない。ただ、自分も含め、まわりのデザイナーはモリサワの書体(あえてフォントとは言わないよ)はゴシック対の金字塔「MB101」と、ゴシック並みに言葉に力を与える太楷書体「MCBK1」しかつかっていなかったのではなかろうか。
基本的にそれ以外の殆ど全ての書体は写研のものを使用していたのである。
それほどまでに、我々関東圏のデザイナーにとっては日常だった写研の書体だったが、世の中のデザイン作業がDTPと呼ばれるものに変わり、版下が不要になり写植屋さんがいなくなっても写研の書体がコンピューター用のフォントとしてリリースされることはなかった。
自分が写研の書体を日頃目にしてデザインの研鑽を積んでいたということもあり、もしかしたらかなりひいき目に見ているのかもしれないが、特に明朝体の美しさではモリサワは写研に匹敵するフォントを未だに開発できていないと思う。
それほどまでに写研の、特に石井明朝体「BMA-OKL」は美しかったのだ。
それが、やっと「モリサワから」リリースされる。いったい何十年遅れてるんだ。
世の中(フォント業界)の趨勢もモリサワ一人勝ちになった後で、出遅れたとかそんな次元ではない。
モリサワがコンピューター用フォントを初めて発売したとき、写研もその流れに乗り遅れていなければ、関東圏のデザイナーを今でも捉え続けることができただろうに。
・・・・ま、昔話さ。
誰にでも手軽に美しいデザインが作れる現在、フォントの数も爆発的に増えている。(完成度の高いものは一握りだが)
活字をフォントで復活させたり、手書きのレタリングでしか存在できなかったようなPOPな文字など、選択肢は様々だ。
今さら石井明朝体が復活したところで世の中は何も変わりはしないが、それでも自分はこのことを素直に喜びたい。
そして、発売されれば嬉々としてこれを、こればっかり使ってしまうだろう。
それほどまでに思い入れのある「書体」なのである。