たまには立ち止まって、ゆっくりと物事を観察してみたい。

カバー
和綴じになっている

写真家の小林鷹さんが、長年に渡って京都の芸妓さんを撮影した写真集「うつやか」が先月出版された。
写真そのものは数年前に個展で展示されていたもので、
その後海外のギャラリーなどでも展示され、高い評価を得てきた。

日米文化会館:小林鷹さんが個展―芸妓を「うつやかに」写す

当時、鷹さんにプリントの段階で見せていただいたが、
ひとりの女性の穏やかなたたずまいの中に垣間見える鮮烈さが印象的だったことを思い出した。

いま、あらためて写真集としてページを綴ってみると、
この芸妓さんを撮影するために京都に通い、
そして一緒に過ごした鷹さんの濃密な時間が凝縮されている。

また、昔ながらの和綴じ本であることから、
本物に拘る作者の意気込みが伝わってくるのはもちろん、
一枚一枚のページを綴る指先にしっかりとその重みが物理的に伝わってくる。
この写真には、この製本しかなかっただろうと納得してしまう。

同じ写真でも、プリントで一枚一枚見るのと、
写真集として手に取ってみることでは全く表情が変わる。
印画紙にプリントされている段階では、
まるでカメラのレンズからダイレクトに出てきたもののような臨場感と迫力がある。
怨念が宿っていると言ってもいいかもしれない。

これが写真集になると、
その一枚一枚の怨念が、ストーリーになる。
デザイナーの手も入り、質感という重量が与えられる。

今の「写真」は、誰もが手軽にスマホで撮って公開できる時代だ。
目の前で出会ったその気持ちが切り取られ、
SNSに投稿され、そして消費されていく。

ぼくらのような、広告を作ってきた人間も、
まさに短期間で消費される「クリエイティブ」を作ってきたけれど、
これほどのハイペースで消費されていくのが当たり前になってくると、
ちょっと立ち止まってみたい、じっくり目の前のものに取り組んでみたいと思ってしまう。

早く早くと追い立てられる日常のために不感症になってしまっているのかもしれない。
鷹さんの写真を見ていると、
自分の中に時間を取り戻していきたい衝動に駆られるよ。

 

最後まで読んでいただいてありがとうございます。
デザインを戦略にして、もっといい会社になろう。

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